業界社史の研究 2. 金属製品製造業・機械器具製造業編

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産業史の生きた教科書 専業メーカーの社史

この業界は、昔から産業の基盤をなしており、重厚長大企業から中小零細企業まで実に幅広い事業分野や企業規模がある。  発行されている社史を見ると、昭和40年代くらいまでのものは、いわゆる“正統派の社史”、つまり、分厚くて重いハードカバーのものが多い。

例えば、日本産業機械工業会編纂の『日本産業機械工業戦後20年史』は、B5判で1216頁という大部である。しかもこれは同工業会が10年前に発行した『戦後10年史』の姉妹編である。しかし、全体の解説は5頁にすぎず、各機種ごとの動向解説、分野別統計を中心に編集されており、産業機械業界のデータブックといえよう。

その一方で、中には堀場製作所発行の『おもしろおかしく25年』のように、タイトルそのままに、社長の顔写真を1頁のイラストにしたり、A4判のたて約半分以上を文章にしながら、残りを写真や図版スペースにするなど、編集の工夫が感じられるユニークなものもある。 概してこの業界の社史の特徴は、それぞれ専業メーカーとしての個性が豊かで、“産業史”的性格が強いことである。

東京製綱(株)創立80周年記念特集号『産業とロープ』は、社史というよりは社内報の特集号的性格のものだが、ロープの発生からいままでの変遷を、平易にまとめられており、まさにロープの産業史だ。

日本アルミニウム工業50年の歴史を編んだ『社史』も、冒頭にアルミ工業の国際的環境、アルミの発見から日本にアルミが入ってくるまでを解説し、そのあとにやっと「社史」をもってきている。

クリナップの井上工業(株)が30周年記念で編纂した、『人と暮らしの中に 流し台の歴史』も、冒頭の口絵に奥利根の雪の水屋、重文・旧太田家のかまどをもってくるなど、流し台の歴史解説に力を注いでいる。ちなみに、流し台の歴史が110頁、会社の歩みは36頁である。

油圧機器メーカー・萱場工業(株)の『油圧に生き油圧を超えて 風雲と激動の40年』は、戦前から軍需産業として存立してきた企業が、戦後、いかにして民需産業に活路を求めてきたか、戦後の困窮期にすきやくわ、大工道具等を生産しながら生きながらえ、いかにして現代のロボット分野に活路を求めたかが記されている。

その足跡は、たんに一企業の歴史ではなく、日本の機械製造分野のメーカーがたどった歩みであり、同時に日本産業の復活の歴史を表すものといえよう。

『蛇の目ミシン工業五十年史』は、821頁という頁数にもかかわらず、たて組の上3分の1ほどを写真・図版か余白にあて、読み難さを感じさせない。同様に、『三菱電機冷熱事業史』も、大正10年以降の同社の冷熱事業に対する取り組みを紹介しながら、42頁におよぶ製品紹介の口絵、90点もの事業開始以来のカタログを掲載している。また、3段組の下3分の1を写真スペースにして、読みやすい工夫がなされている。

また、播州特産金物の歴史を古代にまで遡って解説した『三木金物史』、石の包丁の解説から始まっている堺刃物組合連合会史『堺刃物』など、産業の歴史を学ぶことのできる貴重なものもある。

そんな中で、日本パーカライジング(株)の社史『パーカライジングと兵器』の冒頭で語られる、「企業の一部門である金属表面処理の分野についてさえ、その技術を確立するためには、かくも多くの人々の英知と努力の集積が必要であったという史実を目のあたりに見て、感慨を新たにしました」という言葉は、製造業の社史をひもとくとき共通して感じられる思いではなかろうか。

 

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