皆様、明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願い申し上げます。
さて、いよいよ21世紀が始まったわけですが、皆様のところでは何か良い変化がありましたでしょうか? 私たちは昨年末、20世紀の締めくくりを記念して、営業・編集担当者が一堂に会して討論してみました。テーマは「20世紀の社史業界の回顧と、21世紀の予測」。今までの私たち自身の経験をまとめ、今後のあり方を考えてみたものです。ご参考になれば幸いです。
20世紀の社史
よく私どものお客さまから「今年あたり、50年史の注文が多いのではありませんか?」とおたずねを受けます。“戦後50年だから”というわけです。確かにその通りで、お客さまの半数以上が、50年史となっています。
私どもでは以前、国会図書館の社史蔵書を独自に調査したことがありますが、その結果とも合っているので、戦後日本の社史事情について簡単に振り返ってみましょう。
国会図書館に寄贈された社史の「発刊年次」を調べてみますと、各年一様ではなく、発刊点数にムラがあることがわかります。
まず最初は20年史ブーム。これは昭和45〜47年にかけておこりました。時は「昭和元禄」、各社ともそうとう力を入れて立派なものを出されたのではないかと推測されます。
次は昭和55〜57年の「30年史」ブーム。10年前に「20年史」を発刊した企業と同じ世代と思われます。
次のブームは、さらに10年後の平成3年ごろ。「4」という数字は避けられる傾向がありますが、このときばかりは景気最高潮の余波を受けて、かなりの企業が「40年史」を出されたようです。 そして次が平成13年、すなわち本年です。冒頭に述べましたように、弊社にお話を頂戴する案件の半数以上が50年史となっているのは、やはりブームの再来というところでしょう。
ところで、お客さまが本年に50周年をお迎えになるということは、昭和25年頃が会社の始まりという計算になります。“戦後50年”とは少しずれますが、それはきっと、会社設立(法人化)からの起算であることが多いからだと思われます。戦後、全国各地で大小さまざまな会社が旗揚げされましたが、経済の混乱期ゆえ、離合集散の末に25年頃にいたってようやく、しっかりした基盤をもった会社が設立されるようになった、ということかもしれません。もっとも、このあたりは私どもの経験を踏まえた想像でしかありませんので、機会をみつけて経済史の専門家の意見を仰ぎたいと思っています。
余談になりますが、戦後の復興期において、事業活動によって社会に貢献したいという創業者の高潔な志はいずれの会社にも共通です。お話を伺うたびにすがすがしい気持ちにさせられます。
社史というと“昼寝の枕”という形容詞がつくことが多いのは残念ですが、そのことの当否はおくとして、確かに従来の社史は枕とするのに手頃な体裁であったかもしれません。
昭和40年代ごろまでは社史の発刊はステイタスの象徴であり、主に金融、繊維、鉄鋼、造船などに従事する大企業が多く発刊したようです。そうすると勢い、会社の歴史だけでなく、業界の歴史をもまとめるということになり、分厚く、読みにくくなりがちであったわけです(しかし、資料集成としては充実しています)。 反対に、薄い社史もありました。これはいわば「社員の思い出アルバム」といえるもので、会社の歴史はそこそこに、慰安行事の写真、思い出の寄稿などが主な内容となっています。これはおそらく、職場が最大の生活の場であった時代だからではないかと思います。
その後、日本の企業社会が豊かになり、パソコンの発達などにより、社史がより身近になってきたようです。従来の“重厚長大な社史”“思い出アルバム”的社史以外に多くのバリエーションが出てきております。特に1990年前後のいわゆる“バブル経済期”には各社こぞって社史を発刊し、あるものはPR色豊かに、あるものは著名人を招いて社長との対談を催したり、またあるものは社員の全員参加を目指すなど、華やかさを競いました。
この数年は景気の停滞が著しく、社史を発刊する企業・団体の数は、一時に比べると減少しています。しかし逆に不景気にもかかわらず発刊するのは、それだけ社史にかける気持ちに強いものがあるということで、制作の委嘱をうける私どもとしては、一段と気持ちを引き締めてあたるとともに、心楽しいことでもあります。
最近の社史のテーマの筆頭は、やはり“20世紀の○○社の足跡をまとめて次代に伝える”というものです。日本の経済社会はこれからも一段と激動が続くことでしょうが、それにあたって会社のもっている財産(知恵、ノウハウなど)をまとめ、今後を考える際の参考としたいというもの。社史の王道といえましょう。
21世紀の社史は
さてここまで、20世紀の社史の歴史を私どもの経験を中心に振り返ってみたわけですが、では21世紀には社史はどういうものに変化していくのでしょう?
それを考えるにあたっては、まずこれからの企業社会がどのように変化していくかに目をやらなければならないでしょう。 一つの有力な考え方として、これからの日本では“世界標準”的な価値観が企業社会のキーワードとなるであろうという見方です。そうなりますと、
- ・社史も“本”という形にとらわれなくなり、DVDやインターネットを活用したものが出てくる。内容面では、IRやPRに特化した社史(歴史を素材の一部とした出版物)がふえる。
- ・デジタル技術の普及によって企業内データベース、外部とリンクしたデータベースが出来てくる。社史はその抜粋と位置づけられる。
- ・企業の情報開示が当たり前となり、本音と建前の使い分けが許されなくなる。社史も情報開示のためのツールとして位置づけられる。
- ・社会的に会社の理念が問われる時代になり、社史には単に会社の歴史だけでなく理念・アイデンティティを説明する機能が求められる。社員・顧客ともに、その理念に共鳴する人が入社し、お客となる。社史は、“フィロソフィ・ブック”のような名前になっている。
などの可能性が考えられます。これらはいずれも、会社の歴史はあくまで素材の一部であり、必要な経営課題の解決に向けてシャープに機能化された出版物です。
しかしこのようなアメリカ的な進展とは反対に、機能を限定するよりもさまざまな要素をバランス良く盛り込んだ出版物として発展していくかもしれません。過去の足跡の記録であり、社員教育に活用でき、対外的なPRツールとしても有用であるという現在のスタイルです。
機能を絞り込むか、バランスを重視するか? いずれにしても、社史のスタイルは企業社会のあり方を映すものであり、まことに興味深いテーマであると思います。