「目的」の明確化はなぜ必要か
何のために社史をつくるのかという「目的」が明確になっていないと、途中で企画そのものが腰くだけになったり、制作の方向性がぶれてしまいます。また、社史編纂ではその作業中にいろんな判断を求められますが、「目的」がはっきりしていないと、その判断の基準すらぶれてしまいます。
「目的」が明確になっていれば、どんな社史をつくるべきかということが自ずとはっきりしてきます。逆にはっきりしていないと、どのような社史をつくればいいかすらわかりません。
企画をたてる前に、社史の編纂に関わる人たちにぜひとも議論をしておいていただきたいのは、次の二つのことです。一つは、「何のために社史を刊行するの か」ということ、もう一つは「わが社の歴史に対する見方、見解をひとつにまとめておく」ということです。この二つがいかにしっかりと議論され、統一見解が まとめられているかということで、後々の社史づくり、あるいは企画そのものが大きく変わってきます。
社史制作・6つの「目的」
社史制作・6つの「目的」
大切な社員に、会社の歩みや考え方、そして将来像を知っていただくことで、会社への信頼感を増すことができます。また社員が会社の業務に精励するためには、ご家族の理解と協力が不可欠です。
社史はまず社員がいちばんの読者であり、そのご家族を含めて会社との親密感を増して、一体感を醸成する最良のテキストになります。だからこそ、見やすいもの、関心がもてる社史をつくることが重要なのです。
社史を出版するときは、会社が何らかの節目を迎えたときにほかなりませんから、社員にその後の企業活動に積極的に取り組んでもらうために、その節目を明確に認識してもらう必要があります。
だからこそ、できるだけ多くの人に関わってもらい、周りの関心を呼び起こす工夫をしていただきたいと思います。社史ができてはじめて、社員がわが社の周年を知るということでは、社史の作り方としてたいへんまずいことです。
出版が決まった段階から、社員が関心をもてるように、編集委員会や編纂室の協力で機運を盛り上げることが必要です。社史に対する関心の輪を広げることが、社史をつくるときの大事なポイントなのです。
温故知新という諺がありますが、社史は、今までの会社の歴史を振り返って今後の運営を考えるということの格好の材料となります。
会社の歩みのなかにはさまざまな出来事がありましたが、そのときどきに会社の経営トップや幹部の人たちが意思決定をし、進路を選択してこられました。そのような会社の価値観を、一人でも多くの社員に共有してもらうことは大切なことです。
また、会社の歴史を知るということは、将来を知ることにもつながります。会社の歴史を将来の経営に役立てるには、さまざな出来事の中の良かったことの評価をきちんとしておくことが必要です。会社が現在も存在しているということは、過去において良かったことと悪かったことの割合で、良かったことが多かったからこそ、今日まで経営が継続されているわけです。
同時に、会社として歴史を顧みたなかで、この点は反省しておくべきだということをはっきりさせ、経営陣や社員の今後の活動に生かしていくことを、ぜひ社史のなかで述べていただきたい。
多くの企業が会社の歩みのなかでいくどかの移転を経験しておられ、そのつど多くの資料が捨てられたことと思います。しかし、いま残されている資料を、いつかは一定の基準に則って取捨選択し、必要に応じて引き出せるようにしなければなりません。
資料は、すべてを残すわけにはいきません。社史制作を機に、以後へ残すものと捨てるものとの区別をつけ、残すもののなかから何を社史に掲載するかといった選択をおこないます。その選択基準が以後の資料の収集・整理と、今後に生かすポイントになります。
社史は会社と地域社会、会社の商品と社会や人々とのかかわりを誤解なく、より正確に、また会社の顧客や社会に対する感謝の気持ちや誠意を正しく伝えるのに、大きな役割をはたします。
社史で会社の存在意義、存在価値を明確にすることで、「なぜわが社が存在しうるのか」「なぜわが社が社会に役立ちうるのか」といったことがいっそうはっきりし、社是や企業理念を周囲の人々に理解してもらえ、社員にもそのことをきちんと伝えることができます。
一人の人間にとって、「自分は何のために生きているのか、自分は何をしようとしているのか、どこから来てどこへ行こうとしているのか」というようなことは大事な、根源的な問題ですが、会社にとっても同じです。
先ほどの存在理由とは違って、わが社とはいったい何なのか、どこから来てどこへ行こうとしているのかというような問いに、社史は答えていく必要があります。
会社自身にとっても、常にそのような自問自答が必要ではないでしょうか。会社のアイデンティティを明確にしてゆくことは社史にとって不可欠の要素なのです。
以上のような「目的」をよく認識したうえで、それぞれの企業で「わが社はこの目的を優先しよう」といった順位づけ、あるいは取捨選択をされたらよいでしょう。
その順位づけがはっきりしてくることで、「わが社の社史はどのような内容にするのか、どんな体裁にするのか、どれくらいの経費をかけるのか」といったことが決まってきます。