伝統と新しさの混在した暮らしに身近な食品製造業
食品製造業界の社史や記念誌を眺めると日本に古くからある味噌、醤油、日本酒、鰹節といった企業のものにはその伝統と歴史を感じる。
『タケヤ味噌百年史』は、現社長が記した序文に「タケヤ味噌創業百年記念のひとつとしてタケヤ味噌創業百年史を編纂して先父の霊前に捧げようと思う。(中略)祖先の努力に酬いその霊を慰め得れば幸いとすることである」と記されているように、4代100年の想いが感じられる。
この本の特徴は、構成が3編からなり「竹屋の現況」「竹屋発展史」「竹屋とそれをめぐる人々」というように、時系列ではないことである。また、竹屋発展史の第1章が「信州味噌発展の概略」から始まっているように、味噌の始まりから説き起こしている点である。同社では、170年前からの古文書類や取り引きに関する台帳等が倉庫にしっかりと保管されており、その模様が誌面に掲載されている。
『日本醤油業界史 第2巻』は日本醤油協会設立40周年記念として刊行されたもので、昭和33年からの最近10年の動きをまとめてあるが、詳しい業界の動向とともに、需給関係の統計も豊富である。
味の素(株)は、『味の素沿革史』、『味の素の50年』、『味の素株式会社社史1・2』と、10年、20年おきに社史を刊行している。そして昭和40年には、60周年記念事業の一環として新書判で『未踏世界への挑戦 味の素小史』を出版、市販もしている。
東京鰹節問屋組合の創立50周年を記念して編纂された『かつおぶし』は、まさに鰹節の食用史である。先史時代にはカタウオ、王朝時代に堅魚、江戸時代になってから鰹節と呼ばれるようになったということから説き、「江戸と鰹」の項では、初鰹の由来や俳句、川柳、小咄、踊り、狂歌、漢詩文にまで幅広く鰹が登場し、いかに庶民の暮らしと密着していたかが面白く解説してあり、読み物としても十分に楽しめる。
『ふじっこ25歳の本』は新書判のたて組で、見出しを大きく扱い記述も平易で非常に読みやすく編集されている。上段4分の1くらいに写真や図版をおき、1つの見出しで2〜4頁を構成してあり、どこからでも読めるような工夫がしてある。
『はごろも缶詰の五十年』は、『日本缶詰史』を著した専門家の執筆になる。2年の歳月をかけて取材し、約2000枚にまとめた1次原稿を編纂委員会で3分の1に縮め、削除された文章は史料として永久保存されているという。
『日本のパン四百年史』も専門家の執筆による。驚くことに、天保13年(1842)に伊豆韮山代官の江川坦庵によって邸内で軍用のパンが焼かれていたという。また、明治初期に邦人経営のパン屋が生まれ、苦心の末にアンパンを考案、日本におけるパンの普及はアンパンが始まりだというエピソードも面白い。
雪印乳業(株)は『雪印乳業史 第1巻、第2巻』という社史を編纂しているが、それとは別に『写真でみる雪印乳業五十年』を発行している。大正14年創業以来の歴史が、各工場、作業風景、パッケージ、ラベル、広告、ネオンサイン、TVコマーシャルなどの変遷を表す白黒約800点、カラー300点の写真で構成されている。
『サントリー80年の歩み』もA4判変形で写真主体の編集である。横組のオールカラーで、上段の本文は3コラム、下段のイラストを大きく扱い、余白もゆったりととられていて非常に見やすく、実に洗練されたデザインである。
我々にとって身近な食品は、技術革新とともに最初から広告が盛んな業界であり、それらの「社史」を眺めることで、ただたんに生産技術の進歩だけでなく、社会の変化を感じることができる。