『灯りと安全を担って 70年の歩み』
「船灯」の歴史を伝え残すことが当社の使命と社史制作に臨みました。
A4判112ページ、上製本、2007年2月発行
日本船燈株式会社 取締役 技術部長 平堀健紘様
初めての社史発刊だそうですね。
70周年の記念行事として何を行うか議論したときに、社長が「これから会社を続けていくためには、70年の記録が何もないというわけにはいかないだろう」と発言したのがきっかけでした。確かに、企業として商品開発を進めていくうえでは、当然会社としてのポリシーや理念を受け継いでいく必要があります。しかも当社は現在、平均勤続年数12、3年の社員が大半を占め、私でさえ社歴40年です。このままでは会社の歴史を語り継ぎ、受け継ぐ手段が失われていくことになる、これは作らねばとなったわけです。社長は関連会社から来られた方ですが、関連会社は50年史、70年史を発刊しています。その経験から言われたのですね。
企画面で重視された点はなんですか?
第一に、当社だけの歴史ではなく業界の歴史をも記録することとしました。当社は船灯(航海灯)という特殊商品を70年間作り続けてきました。つまり、日本の近代化とともに航行の国際ルールが整備されていく、その始まりの頃から船灯を作ってきたのです。いわば日本の船灯の歴史は当社の歴史でもあるのに、残念ながら、これまで業界の歴史をまとめたものがなかった。そこで、当社がその役割を果たそうと考えたわけです。
記録を残すことに主眼を置かれたわけですね。
その通りですが、業界や会社の歴史の理解を通じて、社員一人一人が会社や製品に対して思い入れをもってもらえるのではないかという期待もありました。当社は安全を担う製品を作っております。当然製品の信頼性は人命に関わります。かりに製品としては10万分の1のミスであったとしても、当事者には100分の100のことですから。つまり、一つ一つの製品が使用者の安全に寄与するものでなくてはならない。そういう意識を高めることもねらいでした。
どのような編纂体制で社史制作に臨まれましたか?
社内に部課長会がありまして、そこで基本的な構想を練るという体制でスタートしています。具体的には費用面や発刊の計画・日程、資料収集の方針等を話し合い、実行に移すという形です。もうひとつはOB会の協力を仰ぎました。5~6名に3回ほど集まっていただき、資料や写真等を持ち寄ってもらうとともにフリートークの形で会社の歴史を聞かせていただきました。
本文は関連会社の方の執筆とうかがいましたが。
関連会社の相談役です。総務部長時代に社史編纂チームのトップとして50年史、70年史の制作経験をお持ちで、制作の“いろは”を知らない当社の事情を知って、協力を申し出てくださったんです。お願いしてとても良かったと思っています。関連会社は海洋関係の総合商社ですから、船関係や業界の知識に精通されていて、船灯の歴史をまとめるうえでも、業界の流れを肌で知っておられることが大きなプラスになりました。関係業界の視点が加わったことで社史に厚みが増したと思っています。
■70年目にして初の社史ということで、初期の歴史を調べるのに苦労されたと思いますが。
戦前戦中の記録は、昭和20年代にまとめられた「回顧録」がありました。それ以外は時系列的に整理された資料がほとんどなく苦労しました。幸いだったのは、製造承認の記録書が残っていたことです。当社の製品は国際ルールで決まった性能を出さなければならないので国の承認が必要で、書類には保存義務があった。だから残っていたのでしょう。これを時系列に整理し、さらに法律と照合することで、この製品は何故どのような理由で製造されることになったのかを明らかにできました。法律関係の扱いは神経を使ったところで、確証を得るために公的機関で調べて裏を固めるという作業を慎重に行いました。
■配布後の反響はいかがでしたか?
お配りした皆様からは好評をいただきましたが、意外だったのは、図書館や研究機関から贈呈の依頼があったことです。国会図書館では寄贈された書誌の情報をHPに定期的にアップしているようで、当社社史についても、その情報を見てお問い合わせをいただきました。意外なところからの反響が嬉しかったですね。
■地元の図書館や小学校に社史を寄贈されたそうですね。
製造するのは特殊な商品ですから、地域の方々に会社のことをPRする機会があまりありません。社史の寄贈は地域密着度を高めるいい機会となればと思ってのことです。小学校は、年1回校外授業として工場見学に来る関係もありました。それ以外にも市役所や商工会議所に配りました。
■これから社史を担当される方にアドバイスがありましたらお願いいたします。
あえて挙げるとすれば、原稿はできれば自社で作成することをお薦めしたいですね。社史制作への目的意識が強いほど満足感は高いはずだからです。また、今回私が実践して良かったと思うのは、本来なら最後に書くべきあとがきを最初に書いたことです。もちろん制作途上であとがきの内容とのズレは生じましたが、そのつど書き直しました。これで社史制作の方向性が明確となり、目的意識の集約に繋がりました。
どうもありがとうございました