社史であれ、記念誌であれ、その企画のベースになるのは「発行目的の明確化」であるということは小誌の第1号で既に述べました。
そこで、どのような構成にするかを考えるにあたって、いま一度「発行の目的」について振り返ってみたいと思います。
発行の目的として、小誌では、
- 1.社員とその家族、取引先に会社への理解を深めていただく
- 2.社員に周年などの節目を意識してもらう
- 3.会社の足跡に学び、今後の経営に役立てる
- 4.経営資料の保存・管理のため
- 5.業界の内外に、会社とその商品・製品の存在価値をアピールするため
- 6.会社のアイデンティティを確認するため
という6つの目的を掲げました。
実際に社史や記念誌を発行する場合には、このような目的のうちのいくつかを兼ね備える場合が多いようです。
創業者伝か組織の歴史か
会社にとって大きな位置を占める創業者をどう扱うかということも大きなポイントです。
創業者が現役の経営者であれば、代替わりを視野に入れて、ねぎらいの意味で社史を発行する場合があります。あるいは、亡くなられたために追悼の意味あいを込めて発行することも考えられます。
しかし、「社史」というのは会社組織の歴史をまとめたものですから、創業者個人の功績がいくら大きいとはいっても、その取り扱いは慎重を要します。
一般的なのは、時系列的な記述のなかに、創業者の功績等を含んでしまうという方法です。例えば、「第1章 創業前史第1節 □□□□の生い立ちから創業まで」「序章 創業まで 創業者□□□□のこと」といったようにして本文の冒頭に持ってくるという取り扱い方です。
また、「創業時の思い出」というような項目を設けて創業者からみた会社の歴史を書くという方法もあります。「第1章 創業までの私」「第2章 独立して会社を起こす」というように、本人にしか分からないことを、本人が語るというのもひとつの方法です。
あるいは、本文の中に「創業者伝」という項目を設けて創業者にまつわるいろんな側面を詳説することも可能です。「第○章創業者□□□□小伝」、もしく はオーナー経営者が何代も続いている会社であれば「第○章 創業者を語る 第1節 父の開拓精神 第2節 祖父□□□□の思い出」のような形で創業者像を 描写できます。
社史にこだわらなければ、創業者の伝記としてまとめるという方法があります。例えば、「□□一筋に生きて……○○○○の生涯」のように、創業者の人生と 会社の歩みを重ねて、人間ドラマとしてまとめる形式で、この方法は数多く見られます。社内や関係者だけに配布されることもあれば、有名作家に執筆を依頼し て市販するというケースもあります。
肝心なのは本文の構成
一般的な本文の構成や内容についてふれてみます。
まず、祝辞や監修の言葉があります。祝辞は、グループ企業代表者、関連団体代表者、取引先代表者(仕入れ先、販売先)などに依頼することが多いようで す。この場合、多くても4人くらいまでが妥当ではないかと思われます。監修は、親しい学識経験者等に内容の確認をお願いして監修の言葉をいただきます。
意外に大切なのが、凡例です。これは、編集上のルールや社史制作上の決まりごと、あるいは社史をよりよく理解するうえで知っておくと便利なことを列記し ます。例えば、「記述の対象期間はいつからいつまで」「人名については敬称を省略した」「国内の会社名については一部を除き法人呼称を省略し、外国の会社 名は『○○社』と記述した」「年代表記は和暦で統一し、海外のできごとについては西暦を併用した」「数字はアラビア数字で表記し、億や万の補助単位を添え た」「技術用語については、欄外に<注>として解説し、巻末に索引を付記した」といったようなことです。
冒頭を飾る写真、つまり口絵としては、会社のシンボル的なもの、例えば社是やロゴマーク、あるいは企業イメージを象徴する写真、会社の現状(製品や事業所等)を表すもの、そして歴史を表すものなどが、数多く使われています。
そして、ほとんどの社史に掲載されているのが資料編です。ここは、会社として記録し、保存すべき資料類で構成します。例えば、資本金の推移、売上高の推 移、事業構造の変遷、組織の変遷、役員任期一覧、従業員数の推移といったようなものです。それに会社の歩みを年次別にまとめた年表。これは、会社の歩みと ともに業界や社会の動向を併せて掲載すると分かりやすいでしょう。
最後に、社史を発刊するに至った動機や編集のプロセス、工夫等を記述した編集後記、社史編纂にあたって参考にした社外資料や書籍などを列記した参考資料リスト等が、社史の主な構成内容です。
構成の仕方のいろいろ
さて、社史のなかでもっとも重要なのは、なんといっても本文です。その構成の仕方には、大別すると4つの方法があります。
これはずばり、時間の経過に従って会社の歩みを記述する方法です。
会社の歩みを業界、社会、時代背景の中でとらえ、その足跡を明らかにします。これには企業史、経営史、人物史、営業史、技術史、企業文化史、業界史、産業経済史、社会史、世相史などほとんどのジャンルが含まれます。例えば、
- 1.創業のころ
- 2.戦時経済の混乱
- 3.戦後復興の時代
- 4.業容拡大のとき
- …
- 6.石油危機を越えて
- 7.新たなる発展をめざして
というような構成で、年月の経過の中で会社がどのような経験を経てここまで成長してきたかを述べる、ごく一般的な方法です。
このスタイルは、会社の歴史が古く、その業容が複雑多岐にわたる企業に向いた方法です。
まず会社全体の概要を述べて、その後に各部門別に詳述するという方式です。営業、製造、管理、福利厚生といった区分もあるでしょうし、製品別、工場別といった区分もあるでしょう。あるいは、広告宣伝やパッケージの変遷という切り口もあります。
とくに、従来の部門に新しい部門が加わり、一緒に論じるのが困難なときなどに便利な方法です。
例えば1年のできごとを2頁あるいは4頁にまとめて、読みたいところだけ拾い読みできるようにしたスタイルです。この方式を採る際に必要な条件は、各年次のデータがほぼ均等に揃っていることですが、場合によっては数年分を圧縮することも可能でしょう。
また、1年の出来事を見開きに集約する方法もあります。その年のスローガン、出来事一覧表、主な出来事の解説と写真、社会背景の要約などで見開きページを構成するわけです。
このスタイルの特徴は、なんといってもそれぞれの出来事の因果関係にあまり拘らずに編集できることです。
これは、会社としての重要な出来事を中心に置いて、テーマやプロジェクトごとにまとめる方法です。また、会社の歩みを全体ではなく部門別(製造、営業、研究開発等)にまとめる場合もあります。
例えば、石油関連の会社(石油会社及び石油を主原料とする樹脂会社等)がオイルショックにおいてどうだったとか、ゼネコンにおける東京湾アクアライン完成とか明石海峡大橋開通といったような超ビッグプロジェクト、あるいは関西では阪神・淡路大震災からの復興などがあります。とくに、大震災においては災害の後処理や医療の面で、ボランティア活動などさまざまな人間ドラマが展開されたことは皆様がよくご存知のとおりです。
さらには、それらの範疇に入りきらない事項があれば、その他特集として掲載することも可能です。 会社にとって人間が中心である以上、そして経済が生き物であるかぎりそれぞれの会社はさまざまなドラマを抱えています。それらを生き生きと描写することで、その企業独自の特色が出せるはずです。